2021.08.10
建築会社の破産
土地を買ってその上の建物建築中に、建築会社が破産したら、どうなるのか?
『俺のマイホームは・・・?』
みなさんこんにちは。
弁護士の市川一樹です。
これから夢のマイホームを建てる方、将来建てたいと思っている方、多いのではないでしょうか。
さて、今回は、土地を買ってその上の建物建築中に建築会社が破産してしまったらどうなるのか?についてお話ししたいと思います。
みなさんが、マイホームを建てる場合をイメージしてみましょう。みなさんは、これから山田太郎さんになったつもりでご覧ください。
山田太郎さんは、住宅建築会社であるニコニコホームと契約し、5000万円で夢のマイホームを建てることになりました。打合せから地鎮祭まで順調に進み、家の建築が始まりました。ところが、家がちょうど半分ほど出来上がったところで、なんとニコニコホームが破産してしまいました!工事もストップしてしまい、山田太郎さんは、「俺の夢のマイホームはどうなるんだ・・・。あれ、そういえば3000万円前払いしていたけどそのお金は・・・?」と、頭を抱えてしまいました。
山田太郎さんが困っているのを尻目に、破産の手続きは進んでいきます。今回のニコニコホームの破産では、裁判所から、破産管財人(これが何者かはこの後お話しします)として、田中一郎さんが選任されました。
さぁ、山田太郎さんの夢のマイホームは、一体どうなってしまうのでしょうか?これから詳しくお話しします。
土地を買って、その土地の上に家を建てる場合、お客さんは、建築会社と請負契約を締結することになります。請負契約を締結した場合、請負人である建築会社は、家の建築工事を完了しなければならず、注文者であるお客さんは、請負人に報酬を支払わなければなりません。
破産管財人とは、裁判所によって選任される、破産者に代わって、財産の換価・処分、債権者への配当を行う者です。
建築会社が破産した場合であっても、請負契約は当然に終了するわけではありません。請負契約が解除されるまで、または仕事が完成するまでの間は、請負契約は続きます。
請負人が破産した場合、原則として、破産管財人は、この請負契約を解除するか、破産者の債務を履行して、相手方の債務の履行を請求することができます。例外的に、請負契約の目的である仕事が破産者以外の者において完成することのできない性質のものであるため破産管財人において破産者の債務の履行を選択する余地がない場合は、破産管財人は契約解除をすることができません。
なお、注文者からは、契約解除ができます。ただし、この場合、解除によって請負人に生じた損害を賠償しなければなりません。例えば、請負人が建築のために調達した材料があったが、注文者による契約解除がなされたことで、調達した材料が無駄になってしまった場合、その無駄になった分の費用について、注文者は、請負人に生じた損害として賠償義務を負うことになります。
では、請負契約が解除された場合と、履行の請求がされた場合のその後の流れをお話しします。
請負契約が解除された場合、解除の効果は、既に行った工事の部分には及ばず、まだ行っていない工事部分のみに及ぶとされています。そのため、例えば建物が50%完成している状態で建築会社が破産した場合、お客さんは報酬の50%を支払わなければなりません。
一方、請負契約が解除されず履行の請求がされた場合、破産管財人は、仕事を完成させなければなりません。そして注文者は、完成した仕事に対する報酬を支払わなければなりません。
注文者が報酬の前払いをしていた場合に、請負契約が解除された場合はどうなるのでしょうか。
例えば、総額5000万円のうち3000万円を既に支払っていたが、請負人である建築会社が50%を完成させた状態で破産し、破産管財人が請負契約を解除した場合を考えてみましょう。
建築会社が50%を完成させた状態で請負契約が解除されているため、残りの部分50%にのみ解除の効果が生じます。そのため、注文者であるお客さんは、5000万円のうち完成した部分50%に相当する2500万円のみ支払わなければなりません。ところが、今回既に3000万円を前払いで支払っているので、500万円の返還請求権を有することになります。この返還請求権については、破産手続によらずに、破産者の財産(破産財団)から、随時弁済を受けることができるとされています。このような債権を、財団債権といいます。
さて、山田太郎さんの話に戻りましょう。
破産管財人である田中一郎さんは、請負契約を解除せずに、ニコニコホームの下請け会社であるワクワクホームに指示をして、家の建築工事を続けることにしました。そして、無事に家は完成し、山田太郎さんは残りの代金2000万円の支払いを終え、夢のマイホームでの新生活を始めることができました。
一方、田中一郎さんが、請負契約の解除を選んだ場合はどうなるでしょうか。
まず、山田太郎さんは50%に相当する2500万円をニコニコホームに支払わなければならないところ、もう既に3000万円を支払っています。そのため、500万円を返してもらう権利があります。山田太郎さんの500万円を返してもらう権利は、財団債権として、他の一般的な債権(破産債権といいます)に優先して行使することができます。そのため、他の一般的な債権に比べて、回収できる可能性は高いといえます。 そして、工事が途中でストップしてしまったので、山田太郎さんは、他の建築会社を探すなどして、家を完成させてもらうことになります。
いかがでしたでしょうか?
建築会社が破産した場合の法律関係は、やや複雑です。
このような不測の事態に遭遇された場合は、弁護士にご相談いただくことをお勧めします。