2025.12.11
マンション大規模修繕工事の発注時の留意点

公正取引委員会は、令和7年3月、関東地方に所在するマンションの管理組合が発注する大規模修繕工事について、同組合から委託を受けた管理会社等が実施する見積り合わせや入札を巡って受注調整を行った疑いがあるとして、 施工会社に対して、独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで立ち入り検査を実施しました(公正取引協会ウェブサイト)。
マンション大規模修繕工事に関しては、平成29年から平成30年にかけて、初めての実態調査が行われていますが、 その経緯の一つとして、設計コンサルタントによる利益相反の問題が指摘されています(国土交通省ウェブサイト)。
ここでいう利益相反とは、設計コンサルタントが、自社にバックマージンを支払う施工会社が受注できるように不適切な工作を行い、割高な工事費や、 過剰な工事項目・仕様の設定等に基づく発注等を誘導するため、格安のコンサルタント料金で受託し、結果として、マンション管理組合に経済的な損失を及ぼす事態のことです。

マンション管理組合の中には、大規模修繕工事について十分に理解しないまま、 日頃付き合いのある管理会社あるいは同社から紹介された設計業者を設計コンサルタントとして起用する場合もあろうかと思います。
そのような場合、施工業者の選定において入札方式を採用した場合においても、例えば、 設計コンサルタントの助言のもと、入札条件を非常に厳しく設定することによって、談合に参加している業者しかそもそも入札できない場合もあるようです。
談合(どの業者が幾らで入札するかという話し合いのこと)は、 独占禁止法2条6項に規定する「不当な取引制限」に該当する違法行為であり、同法に基づく行政処分の対象になります。
談合があった場合、それが無い場合(適切な競争入札が行われた場合)と比して、発注金額が高くなりますので、マンション管理組合にとって大きな経済的損失となります。

では、マンション管理組合が、大規模修繕工事に関する業者の談合を防止して、適正な発注をするためには、どのような点に留意すべきでしょうか。
大規模修繕工事の発注方法としては、大きく分けて、
①責任施工方式(調査診断、設計、施工までの全工程を特定の業者に一括して発注する方式)、
②設計・監理方式(施工業者とは別に、設計事務所に対して設計・監理業務を委託する発注方式)の2つがあります。
最近では、設計・監理方式の方が多く実施されています。
設計・監理方式の場合、責任施工方式の場合とは異なり、設計・監理業者と施工業者が別々になります。 設計・監理業者が、調査診断、改修の設計をしたうえで、施工業者による工事を監理し、もって、大規模修繕工事が適正に実施できるようにします。
そのため、一般的には、責任施工方式よりも設計・監理方式が望ましいです。
設計コンサルタント(設計・監理業者)の選定方法ですが、日頃付き合いのある管理会社が自ら受注することを希望する場合も多いです。 しかしながら、そのような管理会社といえども、マンション管理組合との間の利益相反の問題は存在していますので、注意が必要です。
少なくとも、マンション管理組合としては、管理会社を設計コンサルタントとして安易に選定すべきではありません。 また、設計コンサルタントの候補先について、そもそも管理会社から紹介してもらうべきではありません。 設計コンサルタントが複数の施工業者を紹介する場合、受注した施工業者からのバックマージンの可能性も疑われますので、ご注意下さい。
そのため、マンション管理組合としては、管理会社の関与無しに、設計コンサルタントを公募で選定することが重要です。
もちろん、管理会社との付き合いの関係上、設計コンサルタントを管理会社にせざるを得ないケースもあろうかと思いますが、そのような場合は、理事会及び総会において十分な説明のうえで進めていく必要があろうかと思います。

施工業者の選定方法ですが、「設計コンサルタントを活用したマンション大規模修繕工事の発注等の相談窓口の周知について(通知)」(平成29年1月27日付国住マ第41号/国土建労第1021号)は、発注時の透明性の確保を目指した取組み事例として、専門誌で公募のうえ、選定を進めた例を紹介していますので、一つの参考になろうかと思います。
なお、公募で進めた場合であっても、業者同士による談合の可能性もゼロではありません。
マンション管理組合としては、複数の業者の見積内容が酷似しているなど、受注予定の業者が他の業者の見積書を作成していないかどうかを含めて、十分に注意する必要があります。
また、業者の選定においては、各業者の提案内容を精査のうえ、価格以外の要素も評価対象として、総合的に判断することが望ましいです。
プロポーザル方式、総合評価落札方式とも呼ばれる方法です。
見積書だけではなく企画書を提出させることは、落札予定業者が他の業者の見積書を作成するなど、談合が生じやすい環境を防止することにも繋がります。
総じて、マンション管理組合としては、大規模修繕工事を適正に発注するためには、専門家(一級建築士、弁護士、マンション管理士等)の助力を得つつ、大規模修繕工事に関する知見を深め、理事会及び総会における適切な意思決定手続のもとに進めていくことが重要です。
今回は、最近話題になったマンション大規模修繕の談合問題を取り上げてみました。
マンション管理組合の運営や大規模修繕工事等でお悩みがありましたら、一度、弁護士を含め専門家にご相談することをお勧めます。


