2026.1.7
取適法の施行(その①)-協議に応じない一方的な代金決定の禁止-

【はじめに】
下請法が2025年に改正された結果、2026年1月1日から、
「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に係る法律」
(以下、「取適法」といいます。)という新たな法律が施行されます。
主な改正ポイントは、
- 協議に応じない一方的な代金決定が禁止されたこと
- 手形等による支払が禁止されたこと
- 適用基準として「従業員基準」(300人、100人)が追加されたこと
- 対象取引として「特定運送委託」(製造等の目的物の引渡しに必要な運送の委託)が追加されたこと
であり、公正取引委員会のウェブサイトにおいて、動画アニメーション付きで説明されています。
今回は、1.「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」について、Q&A方式にて、もう少し深掘りします。

Q & A
Q1.
「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」が、取適法の禁止行為として新たに追加された趣旨は?
A1.
価格決定におけるプロセスの不当性を正面から問題にすること、です。
従来の買いたたき規制(下請法4条1項5号)は、 「下請事業者の給付の内容と同種又は類似の内容の給付に対し通常支払われる対価に比し著しく低い下請代金の額を不当に定めること」であり、いわば「結果」に着目した規制でした。
これに対して、今回規制される「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」は、コスト変動等があったにも関わらず、 協議に応じない等の方法により一方的に代金を据え置くという「プロセスの不当性」を正面から問題にしています。
Q2.
従来の買いたたき規制には、どのような課題があったの?
A2.
従来の買いたたき規制は、下請代金が「通常支払われる対価と比べて著しく低い」ことを要件としていますが、「通常支払われる対価」の判断自体が容易では無い点において、実務上の課題がありました。
Q3.
今回の改正の結果、どのようなメリットがあるの?
A3.
今回の改正の結果、「通常支払われる対価」という判断困難な問題に踏み込むことなく、
「代金設定プロセスにおいて、委託事業者(下請法上の親事業者)が協議義務を果たしたかどうか」という外形的事実に基づいて、取適法違反の有無を判断することが可能となります。
Q4.
価格据え置き行為は、今回新たに禁止されたの?
A4.
違います。
これまでの下請法実務においても、価格据え置き行為は、運用基準(下請代金支払遅延等防止法に関する運用基準)において、買いたたき規制に抵触する旨が例示されています。
そのため、価格据え置き行為が、今回の改正によって新たに規制されたわけではありません。
Q5.
改正の結果、どのようなことが期待されているの?
A5.
今回の改正によって、中小受託事業者(下請法の下請事業者)からの価格交渉が促進され、価格交渉に真摯に応じない委託事業者(下請法の親事業者)への牽制となることが期待されています。
Q6.
「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」の要件は?
A6.
要件は、
- 中小受託事業者の給付に関する費用の変動その他の事情が生じた場合であること
- 中小受託事業者が製造委託等代金の額に関する協議を求めたにもかかわらず、当該協議に応じない、または、当該協議において中小受託事業者の求めた事項について必要な説明若しくは情報の提供をしないこと
- 一方的に製造委託等代金の額を決定すること
- 以上の結果、中小受託事業者の利益を不当に害すること
です(取適法5条2項4号)。
Q7.
「協議に応じず」、「必要な説明若しくは情報の提供をせず」の具体例は?
A7.
取適法の運用基準(第4の9)は、以下のような場合、「協議に応じず」又は「必要な説明若しくは情報の提供をせず」に該当すると例示しています。
- 中小受託事業者が代金の額の引上げに係る協議を求めたにもかかわらず、これを拒否し、無視し、又は回答を引き延ばす等により、協議に応じないこと。
- 中小受託事業者が代金の額の引上げを求めたのに対し、合理的な範囲を超えて詳細な情報の提示を要請し、当該情報の提示を協議に応じる条件とすること。
- 中小受託事業者が合理的な理由を示して代金の額の引上げを求めたのに対し、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、中小受託事業者の申し入れた引上げ額の一部を拒み、又は従前の代金の額を提示すること。
- 委託事業者が代金の額の引下げを要請する場合において、中小受託事業者がその説明を求めたのに対し、具体的な理由の説明や根拠資料の提供をすることなく、当該引下げをした額を提示すること。
Q8.
中小受託事業者が価格交渉をする場合、どのような点に留意すべき?
A8.
書面またはメールで価格交渉を行い、その経緯を記録化すべきです。
電話または面談で価格交渉する場合、可能な限り録音のうえ、その経過を書面に整理のうえ、相手方に共有すべきです(相手方から具体的な反論が無い限り、同書面どおりの価格交渉がなされたと判断されやすくなります)。
【おわりに】
今回は、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」を深掘りしました。
機会があれば、他の改正内容も取り上げたいと思います。
【参考文献】
- 武井祐生「改正法の概要と影響⑵-価格転嫁、手形の取扱い」ビジネス法務(2025年7月号)28~33頁
- 向井康仁・長澤哲也「下請法から中小受託取引適正化法へ―改正の趣旨に迫る」NBL1297号(2025年9月1日号)12~18頁
- 内田清人「改正下請法(取適法)の実務対応」NBL1298号(2025年9月15日号)68~75頁

