せいわ法律事務所

法律コラム

2026.1.16

問題従業員への対応➀

市川 一樹

1 悩める経営者

 問題従業員への対応について悩む経営者が増えている。
背景には、昔と異なり、使用者側には「解雇は難しいって聞いたことあるしなあ・・・」という抽象的な不安、労働者側には「なかなか解雇できないと聞いたことあるし、解雇されそうになったら労働基準監督署に行くなり弁護士に相談行けば何とかなるだろう。」という抽象的な自信が蔓延しているという事情がある。

 とはいえ、問題従業員を野放しにしておくことは、職場の雰囲気の悪化、提供するサービスの質が低下することによる顧客離れ・売り上げの低下、他の従業員の離職、組織の崩壊に繋がるリスクがある。
「軽微な懲戒処分から初めて改善を促し、それでも改善がみられない場合に順次重い懲戒処分を科すこと」がセオリーであっても、そこまで時間をかけることができないケースもある(先に組織が瓦解する)。
また、先行する非違行為に懲戒処分を科さないまま問題が激化してしまっている場合(口頭で注意したに過ぎない場合等)、今から懲戒処分を積み重ねることは難しい(「そんな昔のことについてなぜ今さら懲戒処分を受けなければならないのか。」等の反論を受け、より一層暴走させてしまう可能性もある。)。
以上を踏まえ、組織を守るため、経営者として適切な対処をする必要がある。
「退職勧奨」にせよ「解雇」にせよ、それが必要なのであれば、決して「悪」ではない。
また、「退職勧奨」「解雇」以外の対処が適切な場面ももちろん存在する。

 重要なことは、「経営者が、自社の状況・各選択肢の意味を理解し、そのうえで選択し、その結果について納得して責任を負う。」ことである。
「よくわからないから放置する」「感情的になって解雇する」等、理解・選択せずに経営することこそ「悪」である。
本コラムにおいては、労働訴訟・労働審判実務及び当職の経験を踏まえながら、「問題従業員への対応について悩む経営者に対し、どのようにアドバイスをしたらよいか」について、連載形式でお伝えする。

2 類型(対応を検討する前提としての知識)

 まずは、経営者が採り得る選択肢(普通解雇、懲戒解雇、退職勧奨)について解説する。

①普通解雇

 就業規則が存在する場合には、当該就業規則に記載された普通解雇事由に該当し、かつ当該解雇が客観的合理性・社会的相当性を有する場合に適法に行うことができる。
 なお、就業規則が存在しない場合にも、普通解雇をすることは可能である(根拠条文は民法627条)。

 普通解雇のメリットは、「とりあえず従業員を離職させるという意味では簡単だ(解雇通知書を交付するだけ)」ということだけである。
 普通解雇のデメリットは、後に裁判所によってその効力が否定された場合、

  1. 復職させること
  2. 不就労期間(不当解雇によって勤務できなかった期間)の賃金全額を支払うこと
  3. 慰謝料(不当解雇による精神的苦痛)の支払うこと

という重い負担を義務付けられることである。

 1.は、事実上少ない(労働者も気まずいので、今更復職することを望まない。復職しない前提での和解を望むことが多い。)が、理論上起こり得るので必ず頭に入れておくこと。

 2.は、債権者たる雇用主の責めに帰すべき事由によって労働者が賃金を得られなくなったのであるから、民法536条2項に基づき当然に課される義務である。

 3.は、事情にもよるが、平均して約100万円程度の印象である。

 このような重いリスクに加え、そもそも裁判所がどのような判断をするかについて一義的に予見することができず、著しく不安定な地位(いつ重い負担を課されるかわからない)に置かれること自体が、普通解雇の最も大きなデメリットである。

 即時解雇する場合には、平均賃金30日分の解雇予告手当を支払う必要がある。
 現実に交付しないと予告期間(30日)短縮の効果が生じないので、振込の場合着金日が翌日にならないように注意すること。手渡しの場合、必ず領収書をもらうこと。
 解雇理由証明書は、従業員から求めがあった場合に提出すればよいものであるが、解雇に先立ち後の労働訴訟・労働審判にも耐えうるように準備しておくという観点から、求めが無くても、解雇通知に先立ち必ず作成しておいたほうがよい(逆に言えば、解雇理由証明書が作成できないような状況での解雇は、後の労働訴訟・労働審判にて無効だと判断されるリスクが高い。)。

②懲戒解雇

懲戒解雇は、就業規則に記載された懲戒解雇事由に該当し、かつ当該解雇が客観的合理性・社会的相当性を有する場合に適法に行うことができる(弁明の機会の付与は、客観的合理性・社会的相当性判断の一事情に位置づけられる。)。
就業規則を作成していない場合には、雇用契約書に個別具体的に記載して雇用契約の内容としていない限り、懲戒解雇を行うことができない。

 普通解雇のデメリットは、懲戒解雇にも共通である。
 裁判所は、懲戒解雇の有効性について、普通解雇の有効性に比して、厳しく判断する。
 よって、懲戒解雇は普通解雇に比して無効と判断されるリスクが高く、これが懲戒解雇特有のデメリットである。
 法的リスクだけ考えるのであれば、懲戒解雇を選択するのは不合理である。
 懲戒解雇のメリットは、法的なものより、組織論・経営論的な箇所に見いだされる。
 すなわち、懲戒解雇をすることにより、「当社は当該行為を絶対に許さない」という強い意思・姿勢を対内的・対外的に示すことで、構成員の意識を高め、かつ、外部から当該姿勢に対する評価を受けることにメリットがある。
 逆に言えば、ある事案について懲戒解雇をしなかった場合、今後その会社では同一事案において二度と懲戒解雇をすることはできないので、「その会社はこの事案について懲戒解雇しない会社なんだ」というレッテルを貼られることになる(「横領しても懲戒されない会社なんだ!」等)。
 これにより、構成員からも、外部からも、平たく言えば幻滅されるおそれがあるということである。
 よって、普通解雇ではなく懲戒解雇を選択するかどうかは、経営者の考え方・意思によって決まる。

 なお、「懲戒解雇としては無効であるが普通解雇としては有効」と判断される場合に備え、予備的に普通解雇することも可能である。

<例>

 当社は、就業規則第●●条に基づき、令和●年●月●●日付で、貴殿を懲戒解雇しましたので、通知します。
 また、当社は、予備的に、就業規則第●●条に基づき、令和●年●月●●日付で、貴殿を普通解雇とすることも、併せて通知します。

 懲戒解雇の場合でも、即時に解雇する場合には解雇予告手当が必要であるが、「必要ない」と勘違いしている経営者が多いので注意。
 解雇予告手当の支払いを免れるためには除外認定を受ける必要があるが、除外認定の審査には時間がかかり、かつそれなりに厳しい(しっかり準備しなければならない)ので注意する。
 なお、退職金についても、当然に不支給・減額することはできないので注意。

③退職勧奨

 退職勧奨のメリットは、対象者の合意が得られれば、当該合意が後に無効と判断されるリスクがほぼ無いことである(解雇は会社が一方的に行う法律行為であるのに対し、合意退職は労使の合意に基づく法律行為なので、心情的にも争われにくいし、争われても例外的な場合を除いて無効にならない。)。
 当職も、代理人としてこれまで50人以上退職勧奨を行い、合意退職を取り付けてきたが、後に当該合意の効力を争われたことすら一度もない。
 もちろん、退職勧奨の進め方には細心の注意・準備が必要である(退職勧奨の進め方・注意点等については、後のコラムで説明する。)。

 退職勧奨のデメリットは、ほとんどない。
 あえて言うならば、奏功しなかった場合にかけた時間が無駄になることくらいである。
 経営者にとって気が重いことではあるが、可能性がある事案であれば、まずは退職勧奨を行うことを勧める。

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