2020.05.25
「再スタート」としての「破産」
皆さんは、「破産」という言葉に、どのような印象をお持ちでしょうか?
一般的には、財産を全て失ってしまう、無一文になる、その後の経済的な活動は出来ない、はたまた、社会に復帰することはできない、と考えている方は、多いのではないでしょうか。
しかし、法的手続きとしての「破産」あるいは「自己破産」というものは、必ずしも上記のようなものではありません。
誤解を恐れずに言えば、それまでにあった負債(借金)を清算する(ゼロにする)ことで、新たな社会的・経済的活動のスタートを後押しする仕組み、という側面も有しているのです。
もちろん、破産する時点(正確には、裁判所の破産手続が開始された時点)で保有していた財産の多くは回収されてしまうわけですが、破産手続上認められた財産は、破産後も手元に残すことが出来ます。
例えば、生活に必要な家財道具はもちろん、預貯金や生命保険、車など価値が20万円以下のものも残すことが出来ます。また、現金については、99万円まで残すことが出来ます。
さらに、破産手続開始後に得た収入はすべて自由に使うことが出来、偶然にも、破産手続開始後に多くの金銭を取得することがあっても、破産手続の中で、追加で回収されてしまうということはないのです。下記の資格制限を除けば、働くことが制限されるものでもありませんので、一般的な社会生活を送ることも出来ます。
また、破産したことが戸籍に記載されるのではないかと心配される方もいますが、そのようなことは一切ありません。個人の方であれば、周囲の方に破産したことすらわからないことがほとんどです。
確かに、破産をすることで、一時的に法律上なることが出来なくなる職業もありますし(例えば、警備員・証券外務員・損害保険代理店・貸金業者・旅行業務取扱管理者・宅地建物取引士・弁護士・弁理士・行政書士・公認会計士・司法書士・社会保険労務士・税理士など)、いわゆるブラックリストに載ってしまい、5年間程度は新たにクレジットカードを作ることや借金(住宅ローンなどを含む)をすることが出来なくなるといったデメリットもあります。この意味で、万能な手続きではありません。
しかし、このような破産手続のデメリットも考慮した上で、既存の負債を一旦清算することが、その後の生活を送っていくにあたって大いにメリットを持つケースも多々あります。
例えば、①破産をしないまま負債を抱えているといつまでも住宅ローンを組むことができないですが、破産をしてから数年経過し、信用情報が回復していればその時点から住宅ローンを組むことができるようになります。
住宅ローンなどは30年以上かけて返済をするものなので、年齢が若いうちでないとそもそも住宅ローンを組むことができません。ですので、破産手続きを早めに行わなければマイホーム購入もできなくなる可能性があります。
また、②数年かけて何百万円もの借金を返済できたとしても、完済した時点では貯金が全くできていない場合も多いです。しかし、いったん破産をした場合には、数年かけて(返済に充てるはずだった)数百万円そのまま貯金ができる可能性もあります。
そのため、法律が認めた一つの方法として、破産手続を「再スタート」の機会を捉えることも、有益ではないでしょうか。